主に中山間地域で行われる農業小学校は、近年子供に対する食育の観点でも注目されています。
情報化社会の現代、昔と比べると自然の中で土や植物・動物たちと直接手で触れ合う機会が極端に減っている子供達。
しかし、義務教育である学校以外では、実家か親戚が農業関係の職に就いていないと、手軽に農業を体験することはできませんよね。
そこで今回は、これからの高齢化・情報化社会に欠かせない農業小学校について、中山間地域で実際に行われている取り組みをまとめてみます。
農業小学校を知って自分の子供と一緒に農業を楽しみたい人
学校が無い土日に体を使って勉強がしたい人
子供に食育を学ばせたい人
こんにちは!りゅうたき(@takkyhokkaido)です。
ある地域の農業小学校では、子供だけでなく親である大人の教育にも繋がる結果が出ていますよ!
Contents
中山間地域で行われる農業小学校の取り組みとは

農業小学校は、基本的に中山間地域で行われます。
なので、都内や平坦な土地が多い地域、人口密度の高い市町村では取り組まれていない場合が多いです。
※中山間地域については以下参照。
山間地及びその周辺の地域、その他地勢等の地理的条件が悪く、農業生産条件が不利な地域をいい、農林統計上用いられている地域区分のうち、中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域。
山地の多い日本では、このような中山間地域が総土地面積の約7割を占めています。
この中山間地域における農業は、全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割を占めるなど、我が国農業の中で重要な位置を占めています。
出典:農林水産省
中山間地域は人口密度が低い為、集落としての機能を保ちながら農業や公共事業をこれまで継続させてきました。
しかし、少子高齢化や他の県・市町村へ住民の流出が増加することによって、年々過疎化が進んでいる地域としても知られています。
そんな中山間地域を中心に取り組まれているのが農業小学校であり、主な目的はこのようになっています。
農業で地域を活性化したい!
農業で子供達を元気にしたい!
都会の子供に農業を知ってもらいたい!
農村の暮らしや農家の知恵を共有したい!
子供達に生きる力を付けて欲しい!
農業小学校にはこれらの目的や願いが込められ、中山間地域の元教師や現役・引退後の農家達が集結して行っている活動です。
※JA(農業協同組合)と生協が協同事業で実施している場合もあります。
ところで、内容はどんなことをやるの?
農業小学校で行う授業スケジュール・内容

農業小学校で行う内容は、その名の通り農業が中心となっていますが、行われる市町村によっても内容が変わります。
長野県須坂市にある『信州すざか農業小学校豊丘校』を例に挙げてみると、1年間のスケジュールは以下の通り。
時期 | 授業スケジュール |
---|---|
5月 | 入校式 じゃがいもの植え付け、みその仕込み、とうもろこしの種まき・ねぎの植え付け、田植え |
6月 | さつまいもの植え付け・大豆の種まき、散策 |
7月 | 玉ねぎ・じゃがいも・とうもろこしの収穫、園里郷土資料館見学 |
9月 | 秋野菜(白菜・大根・野沢菜など)の種まき、稲刈り、枝豆収穫、料理 |
10月 | 稲の脱穀、さつまいも収穫、豆の刈り取り・脱穀、玉ねぎの植え付け |
11月 | 野菜の収穫(収穫祭)、焼き芋、料理 |
12月 | 餅つき、修了式 |
出典:須坂市HP
実際に信州すざか農業小学校豊丘校で平成30年度に実施されたスケジュールはこちらを参考に。
この他にも、様々なイベントやオリエンテーションを開催したり、農家のおじいちゃん・おばあちゃんが手作りしたおやつ・収穫物のおみやげなどの特典もあるようです。
授業内容についてはこちら。
対象 | 小学生とその家族(1名) |
定員 | 40名 |
授業日 | 5月~12月までの間、毎月2回程度 原則として土曜日・日曜日・祝日の半日(午前中) |
場所(教室) | 長野県須坂市豊丘 そのさとホール(豊丘上町)と、その周辺の農地 |
授業料 | 子ども一人につき、4,000円(市内在住)、5,000円(市外在住) イベント等により追加で徴収する場合あり。 |
備考 | 授業の合間にはおやつ(おやきなど)があり、収穫物などのお土産も。 |
出典:須坂市HP
2019年5月現在既に募集は終わってしまいましたが、平成31年度の応募条件や授業内容(予定)についてはこちらを参考に。
市町村毎に違いますが、料金は2000円~5000円くらいが相場となっており、場所によっては1回につき3000円程度を徴収する場合もあります。
通常、農業小学校は人口の少ない農村地帯で開校される為、全校生徒が少ない小学校に通う小学生にとって、農業小学校で出会う同年代の子達との時間はとても大切な時間です。
地元の小学生は都会の子と知り合うことで友達が増え、都会の情報を聞き刺激をもらえる。
都会の小学生は普段馴染みのない農業に直に触れることができ、道徳性を学ぶことができる。
山間地域で暮らす小学生、平坦な土地で暮らす都会の小学生、両者にとって土日祝日に開講される農業小学校が貴重な時間となるのは間違いないでしょう。
月2回の授業とはいえ、年間では20回近い授業を受けることになります。
義務教育である公立の小学校では為し得ることのできない、1年間を通した農作業の経験は、子供・大人の食育に大きな影響を与えます!
農業小学校は子供の食育に効果が!

1994年に開校した岐阜県中津川市の『椛の湖農業小学校』では、10年間に授業を受けた小学生の親達にアンケートを行い、子供の食育にも効果が期待される調査結果が出ています。
※椛の湖農業小学校は2016年、周辺住民に惜しまれつつも閉校しています。
回答数107件の内訳は以下の通り。

- 回答者の7割は農村に住んだことがない
- 約9割が実家は非農家
- 5割以上が農業体験の経験無し
- 農業体験の経験ありの場合でもほとんどが家庭菜園
- 5回以内:6%
- 10回以内:83%
- 10回~:11%
以上の結果から、実家が非農家である家族の農業小学校に対する関心の高さが分かるだけでなく、ほぼ毎回通っているという積極性も垣間見えます。
農業小学校に子供を通わせる親の意見では、
「子供の成長に良いと思ったから。」
「都会の生活しか知らない子に農業の大変さを教えたかったから。」
などの意見が8割を超えています。
親の農業に対する意識の変化と共に、他の家族や同世代の子供、指導員である農家達と接することで社交性や協調性も生まれ、子供の成長にも繋がっているのです。
食べ物を育てる苦労・作り出す喜びを知り、『自分の力で生きていく力を育む事』を目指す食育にも効果が期待できることが分かりますね!
農業小学校は大人の教育にも繋がる!

椛の湖農業小学校での調査結果では、子供だけでなくその親である大人にも教育の効果が発揮されている結果が出ています。
「農業小学校に通ったことで学ぶべきものありましたか?」
との質問に対して、「かなり思った」「やや思った」の回答が全体の97%。
「農業小学校に通って、あなたの農業に対する意識が変わったと思いますか?」
と質問した結果、「変わった」と回答したのが61%であった。
このように、普段から当たり前のように手にしている野菜や果物といった農産物を1から自分の手で作り出す作業は、大人の教育にも繋がっていることが分かります。
「農業の高齢化の現実を目で見て危機感を抱いた。」
「想像以上の大変さを知ることができた。」
「農業には楽しさや喜びもあることが分かった。」
全て小学生の子供と一緒に農業小学校を経験した親が感じたことです。
もちろん子供の意識変化も大事ですが、農業の未来を考えた時には、大人の農業に対する意識変化も大きな意味を持つことになります。
年齢を重ねるほど体力面での心配はありますが、農業は何歳からでも始める事は可能です。
農業小学校の取り組み結果
「農業小学校に通って、あなたは農村に住んでみたいと思いましたか?」
との質問に対して、「かなり思った」「やや思った」の回答が全体の55%を超えている。
「農業小学校に通って、あなたは農業に従事してみたいと思いましたか?」
と質問した結果、肯定的な評価が45%であった。
以上の結果から、農業小学校が持つ力は農業や農家・高齢化社会に対する意識の変化だけでなく、将来の農業を見据えた就農者育成の効果も期待できるのです!
近所のスーパーやコンビニで当たり前に買える食材も、生産者の陰ながらの努力を知ればありがたみを感じるようになるし、食べ残すことも少なくなるはずだよ。
日本の農業は、高齢化や農村地域の過疎化によって年々離農者が急増しています。
国は新規就農を希望する人に対して補助金を用意するなどの対策に出ていますが、一向に離農者の減少には追いつかない状態。
酪農を例えて紹介すると、2019年4月にスーパーなどで売られる牛乳が高騰化した背景には、北海道やその他の地域で離農者が増加したことの影響が大きいのです。

そんな中、農業小学校の取り組みは将来の新規就農者を増やす効果も期待され、日本の農業の未来に関わる取り組みであるとも言えます。
就農するとしたら、必ずと言って良いほど「移住」をしなければならなくなります。
簡単に決断できることではないからこそ、就農先・農業の魅力を感じてもらい、定住意向を抱いてもらう為にも、農業小学校がもたらす効果に期待が集まるんですね!
子供だけでなく、大人にも農業教育が発揮される農業小学校は、これからの取り組みにも注目されます。
農業小学校の課題

ここまで農業小学校の魅力を存分に伝えてきましたが、最後に農業小学校が抱える課題についても紹介しておきます。
農業小学校で指導者として活躍される人達は、各市町村で教師をしていた人・農家を営んでいる人です。
よって、農業小学校が開校したとしても、日本の離農者拡大の背景にある高齢化によって閉校を余儀なくされる事態が発生しているのです。
椛の湖農業小学校(岐阜県中津川市):2016年閉校(1994年から22年間)
ポラン農業小学校(JA西和賀といわて生協の協同事業):2018年閉校(1999年から19年間)
桜柿羊の里農業小学校(長野県松本市洞地区):2019年閉校(2001年から18年間)
僕が調べた中では、以上の3校が閉校の道を選択していました。どの農業小学校も20年近く続いていて、生徒数は毎回30~50名はいるほど人気だったようです。
しかし、指導者の高齢化によってこの先の継続が厳しくなり、参加者や農家達に惜しまれながら閉校という形をとっています。
日本はこの先、現在50代・60代の農家が次々に離農を始め、農業の過疎化がどんどん進行していきます。
早めに手を打たないと、元々食料自給率の低い日本では国産の新鮮な野菜や果物・牛乳といった生鮮食品を得ることができなくなってしまうかもしれませんね。
確かに、農業は季節や天候に左右される大変な仕事ですが、それ以上に与えられるものも多い職業です。
子供も大人も含めた人間の未来を考えるなら、農業小学校のような取り組みを更に拡大し、新規就農を目指す人を育成する必要があると言えます。
まとめ:農業小学校はいつ閉校になるか分からない!子供と一緒に食育を学ぼう!

今回は、日本の農業を後世に伝える為に開校した農業小学校について、実際に行われている取り組みや子供・大人に与える影響を詳しく紹介しました。
「土日祝日を使って自分の子供に農業を学ばせたい!」と望む親御さんにとって、有益な情報となれば幸いです。
子供でも大人でも、農業を行うことによって多くの発見と学びを得られますよ!
「でも、都会に住んでて農業小学校が近くにない…。」と悩む関東・関西に住む人達には、近年人気の『シェア畑』をおすすめします。
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現在農業小学校を行っている地域でも、いつその学校が閉校となるかは分かりません。
「子供と色々な農業を楽しみたい!」と願うなら、早めに今住んでいる場所から近い農業小学校を探して、参加する計画を立ててみた方が良いでしょう。
”農業をやって後悔する。”なんてことはほぼあり得ません。自然との触れ合いは、人の心も穏やかにしてくれますよ!
最後までお読みいただきありがとうございます。
農業から得られることはたくさんあるので、大人も子供と一緒に食育を学んでいきましょう!
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